会計・経理のSaaSは、機能一覧を眺めても「自社の月次が本当に締まるのか」が分かりません。請求書の発行から入金の消込まで、実際の業務は一本の線でつながっているのに、資料では機能が箱ごとに切り離されて説明されるからです。検討者は箱と箱のあいだを自分の想像で埋めることになり、そこで判断が止まります。
触れるデモ(インタラクティブデモ)なら、その線をそのままなぞって見せられます。この記事では、会計SaaSのデモを「どの範囲を・どんな順番で・どこまで実データで」作るかを、経理特有の事情(金額と取引先名が必ず画面に写る)を踏まえて整理します。ツールを問わず使える設計の考え方としてお読みください。
機能単位ではなく「フロー完結型」で1本にする
会計・経理の検討者が確かめたいのは、個々の画面の使いやすさよりも「締めまでたどり着けるか」です。そのためデモは機能単位ではなく、業務フロー単位で切ります。おすすめは、請求書作成→発行→記帳→入金消込までを1本にまとめるフロー完結型の構成です。
1本に入れるステップ数は10〜15程度が目安です。多いほど親切に見えますが、途中で離脱されれば結論まで届きません。迷ったら「最初の請求書を出して、その入金を消すまで」という到達点を先に決め、そこに関係しない画面を落としていくと自然に収まります。
- 請求書の作成(取引先・品目・税率の入力)
- 発行と送付(PDFの体裁とメール送信の確認画面)
- 売上の記帳(自動仕訳の結果と勘定科目の確認)
- 入金データの取り込み(銀行明細のアップロードまたは口座連携)
- 入金消込(自動照合の結果と、照合できなかった1件の手当て)
「うまくいかない1件」を必ず入れる
最後の「照合できなかった1件」を入れるかどうかで、デモの説得力は大きく変わります。自動化が成功する場面だけを見せると、経理の実務者は「例外が出たときに誰がどう直すのか」という一番の不安を抱えたまま離脱するからです。
入金額が請求額と一致しない、振込名義が取引先名と違う、1回の入金に複数の請求が含まれている。こうした現場で必ず起きるケースを1つ選び、画面上でどう手当てするかを3ステップ程度で見せます。ここは注目枠やズーム(拡大表示)を使って、どの数字を見ているのかを明示すると伝わりやすくなります。
分岐が必要なときの分け方
運用によって手順が変わる業務は、すべてを1本に詰め込むと閲覧者が迷子になります。デモの途中に選択肢を置き、閲覧者が自分に近いほうを選んで進める双方向の構成にすると、関係のない画面を見せずに済みます。
ただし分岐は多くても2箇所までに抑えるのが実務的です。分岐が増えるほど作成と公開前の確認が掛け算で増え、画面が変わったときのメンテナンスも重くなります。
- 請求書を1件ずつ作る/CSVでまとめて取り込む
- 銀行明細を手動でアップロードする/口座連携で自動取得する
- 自社で記帳を完結させる/顧問税理士に共有して確認してもらう
ダミーデータで作り直すか、黒塗りで済ませるか
会計のデモでは、取引先名・金額・口座情報が必ず画面に写ります。対処は大きく二つで、ダミー環境を用意して収録し直すか、実画面を収録して該当箇所を黒塗り(マスク)するかです。判断基準はシンプルに「写り込みが何箇所あるか」で考えます。
請求書一覧や仕訳帳のように同じ種類の情報が何十行も並ぶ画面が中心なら、ダミーデータを用意したほうが結果的に早く、見た目も自然です。逆に詳細画面が中心で写り込みが数箇所なら、黒塗りのほうが短時間で終わります。両方を混ぜる(一覧はダミー、詳細は黒塗り)判断も現実的です。
Sawatteの黒塗りはスクリーンショットに焼き込む方式で、共有先で元の文字を復元できません。ただし画面をまるごと記録するHTML表示のステップでは効かず、警告が出ます。その場合は、そのステップの表示方法を「スクショ」に切り替えてから塗ってください。なお入力欄やパスワード欄に打った文字は操作の記録データとしては取得しませんが、画面の画像には見えたとおり写るため、黒塗りは別途必要です。
外部の画面が混ざるステップの扱い
記録した画面に別サイトの埋め込み(決済フォーム、地図、動画など)が含まれていると、その部分は再現されず空白になります。会計SaaSは口座連携やカード明細の取り込みでこうした画面を通ることが多いため、先に知っておくと慌てずに済みます。
対処は、そのステップだけ表示方法を「スクショ」に切り替えることです。撮り直しは要りません。公開前に一度、閲覧者と同じ共有リンクを開いて全ステップを目で追っておくと確実です。
作ったあとの使い回しと社内確認
1本作ったデモは、初回接触の営業メール、商談後のフォロー、稟議資料の補足として繰り返し使えます。共有リンクはログイン不要で開ける普通のWebページなので、決裁者や顧問税理士のように「アカウントを作ってまでは見ない人」にも届きます。閲覧側の端末やブラウザも問いません(デモの作成側にはChrome拡張「Sawatte Capture」が必要です)。
経理領域では、公開前に自社の管理部門の確認を通す運用にしておくと安全です。共有リンクは編集画面の「公開をやめる(リンクを無効化)」でいつでも止められるので、提案期間だけ見せて、終わったら閉じるという運用も取れます。案件ごとに見せる範囲を変えたい場合は、デモを複製して別の1本として公開すると、片方だけを閉じられます。
まとめ
会計SaaSのデモは、機能を並べるのではなく「最初の請求書を出して、その入金を消すまで」という一本の線で作ると、そのまま検討者の判断材料になります。例外処理を1つ入れること、分岐は2箇所までに抑えること、写り込みの量でダミーと黒塗りを使い分けること。この3つを決めてから収録すると、後からの作り直しが減ります。
写り込み対策の詳しい仕組みは「デモに写り込む個人情報を黒塗り(ダミー化)する」、実環境を見せにくい製品の見せ方は「セキュリティ製品のデモ活用」、同じく個人情報を扱う業務システムの作り分けは「人事・労務SaaSのデモ活用」にまとめています。